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27.あなたが私で、私があなたで。 [日月記録 ~これまでの話。]

次の日は、朝から快晴だった。

私は、パン屋の奥さんに事情を話し、急遽休みをもらった。
宇宙人やらUFOやら、不思議な話がよく通じる彼女とは、とても付き合いが長く、
まるで親友のように何でも話せる関係だった。
当時私が、サクとの奇怪な関係をひそかに打ち明けていた唯一の人だ。
「あとで、いろいろ聞かせてね」
行きがけに寄ると、そういって焼きたてのパンと一緒に笑顔で見送ってくれた。

一方、塾の方はそうもいかない。
午後からは子供たちの算数クラスがあり、代わりのコーチがいないため、
簡単には休めそうもなかった。
当時の私もまた、多くの人がそうして何かを犠牲にするように、盲目的に
なにかに駆られるようにして働いていたのだ。
「わかったよ。大丈夫。3時に、ここに戻ればいいんだよね。」
サクはあっさりそう言って、車のエンジンを掛けた。
「さて、どこに行こうか。やっぱり、あそこかな。」

ナビもない古い車。そして、言うまでも無くサクにとって初めての土地。
にもかかわらず、馴染みある道のように迷いも無く車を走らせ、
流れるような運転で比叡山へ向かった。
一方私は、助手席の窓から、
目に飛び込んでは泳いでいく見慣れた地元の景色の数々を、
まるではじめて出会う世界のようにぼんやりと眺めていた。

サクの隣にいると、自分という境が消えてしまうようだった。

心とか、感情とか、他人に感じる様々な感覚、
そういったものがまるで別の次元のもののようで、
私から自意識そのものが消えていた。
胸が高鳴るとか、緊張するとか、気持ちを確かめ合うとか。それを恋心と呼ぶならば
その駆け引きの一切を圧倒するほどのこの感動をなんと呼べばいいのか・・・、
そのときの私はただ呆然とするばかりで、何が起こっているのかわからなかった。

自分で自分を感じるのは難しいように、他者に何かを感じるにはなんらかの「隙間」があるからだ。
しかし、そんな距離すら一瞬で失ってしまうほどに、まるで空気のごとく自然に心を重ねていた。

私は誰だっけ?あなたは何者?
あなたは、私の心ようで、私は、あなたの心のようで・・

いま、ここは、変わらず私の現実なのか、実は別の世界なのか・・。

比叡山の景色を眺めながら、私たちは一瞬も途絶えることなく言葉の綾取りを続けた。

過去のこと、今のこと。
友達のこと、家族のこと。
子供がする会話みたいに、馬鹿になってお互いのことを話した。
生まれてから今までのことを辿るように。
別々だったそれぞれの川の流れを合流させるように。

そして、ただ無邪気に笑い合った。
息をするのも惜しいほど、瞬きすら忘れるほど、そのひとときを全身全霊で吸い込んだ。

言葉どおり、我を忘れる時間だった。否、時の流れすら、忘れていた。

サクは、私に指先一つも触れなかった。
それでも、瞳を合わせるだけで、心を通わすには十分過ぎた。
お互いの交わす声は、言霊を宿すように魂深く染み渡り、全身の細胞を震わせていた。

取り違えようもない。自明と呼べるほどの深い認識が、そこに生まれていた。
S極とN極のように、真逆のベクトルを持ちながら、古今東西、ふたつでひとつだったこと。

それぞれが、決して選ぶことのできない道を歩んできた、もうひとりの自分であるように、
同じひとつの魂の源を共有していること。

その喜びと発見を、どんな感激で表現すればいいだろう?
その神秘と畏敬の念を、どんな祈りで感謝すればいいのだろう?

すでに言葉の限り、五感の限りでは、あらゆる枠に収めることに無理があった。

ただ、生まれてはじめて覚えた、震えるように心地よい至福の感覚に、
心がひたすら子供のようにはしゃいでいた。

夢なのか?現実なのか?それとも、もっと違う「どこか」にいるのか?

そのとき、私とサクの過ごした空間は、日常とは全く違う世界を行き来しているようだった。



まるで、そこだけ切り取られた、密度の違う小宇宙に居るかのように。


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そうして、滝のように続く言葉のやりとりの途中、
二人が唯一、同時に言葉を失ったのは、車のスピーカーからある曲が流れたときだった。

それは、出会って間もなく、
サクが私の曲だと言った曲、「風の人」。

初めて肩を並べて一緒に聴くこの曲。

そのとき、深い沈黙が訪れ
私はそのときようやく、「我」という箱に還った。


そして、この出会いを与えた「大きな何か」への
言い知れない畏敬の念が胸からこみ上げ、涙が溢れた。


この出会いを奇跡と呼ばずして、なんと呼べばいいのだろう?




私の花は 幾度咲いたでしょう
私の花は 何度散ったでしょう

ああ 風よ
流れてゆく
人は 幾度 出逢い
何度 別れるでしょう

この季節が来ると 思い出します
瞼の中に 輝いています

さよならだけを 積み重ねました
何かに会いたくて
生きて来ました

私は夢を 幾度見たでしょう
私の夢は 何度消えたでしょう

さよならだけを 積み重ねました
何かに会いたくて
生きて来ました

こぼれる涙 あなたからの贈り物

あなたと出逢うために生まれてきた
あなたと生きるために生まれてきた

さよならだけを積み重ねました
あなたに会いたくて
生きて来ました

あなたと出逢うために生まれてきた

あなたと生きるために生まれてきた


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