So-net無料ブログ作成

29.「山の神」。 [日月記録 ~これまでの話。]

二人の歩みの続きです。
(できるだけ、正確に思い出しながら書いておきたいのですが
情景をうまく再現するための、表現力がなくて心苦しいです・・)

*********************************

曲がりくねった比叡山の山道を、まるで川を流れるように軽やかに進む、
二人を乗せた一台の車。
その日の比叡山には、奇妙なほど、他に全く人の気配がなかった。

サクの運転は、まるでタイヤが宙に浮いているのかと思うほど
本当にスムーズで、心地がいい。
もともと車酔いの激しい私だが、そんなことも忘れて窓の外の風景を楽しんだ。

サクは、初めてのルートを、迷うことなく、それどころかまるで先の道を
計算し尽くしてるかのように滑らかにハンドルを切り続ける。

あっという間にドライブウエイを登りつめ、展望台で車を止めて、
私達は昼食をとることにした。
といっても、サクは持ってきたメロンパンを少しかじっただけで、すぐに
手を止めてしまった。私も同じだった。胸がいっぱいで、喉を通らない。

私はともかく、彼はこの数日ほとんど何も食べてないはずだった。
昨夜渡したお金も水と歯ブラシを買ったくらいで、
ほとんど使っていないらしい。

「おなかすいてないの?家出てからずっと食べてないんでしょ?」
私が心配になってきくと、サクはなんてことなくあっさり応える。
「うん。食べてないし、眠ってもない。」
そうかそうか・・・って、えぇっ?
目が点になっている私を横目に、サクは続ける。

「・・食欲、睡眠欲、性欲、コレって人間の三大欲求だっけ?
今、そーゆう身体の欲求が全く消えちまった。
地元の友達は気味悪がって、人間じゃねえとか言う。
なんだろうね?オレにもわかんねえ。
でも、大丈夫だよ。絶好調だから。
身体が軽くなると、意識がもっと鮮明になる。フル回転してんだ。
パンはすげえうまかった。ありがとね。
…さてと、せっかくここまで来たから、ちょっと外の空気吸おっか。」

そう言ってサクは、車から降り、身体を伸ばした。
景色の見えそうな場所を探しながら歩きだす。
私も後に続いた。

「う…デカい!」
このときまで、車内の横顔しか見てなかった私は、
彼の後ろ姿を追いながら改めて思い知った。
予想以上にサクは大男だった。
というより、こうして客観的にみたところ、やっぱり人間を狩ってそうな
山賊にしか見えない。
派手な民族系衣装の下は、巻スカートのタイパンが風にヒラヒラとなびいてる。
着こなすファッション性も凄いが(ただでさえセンスがない、凡人の私には
一切理解できない)、いくらなんでもこのド迫力の体格に長髪と長髭、
…ちょっと怪しすぎるでしょ。
私は苦笑いしながら隣に立った。
本当に彼は、この時代の日本人なのか、タイムスリップでもしてきたのか。
いや、そもそも人間なのか…?
まさかほんとは霞食べて生きてる仙人なのでは・・?
な~んて、あれこれ頭を抱えそうになる間もなく、視界を捉えたのは広大な麓の景色だった。

その景色は目が覚めるほど美し……かったかどうかは正直ほとんど記憶にない。

ただ、ふと我に返り、この現実離れしたシチュエーションに、自分は
どう振る舞えばいいのかわからなかった。

サクもまたそんな感じだったのだろう。
今は、恋人でもなく、友達でもない。
家族のようで、けれど他人で、自分自身のようで、自分と対極にある人。
どれでも当てはまりそうで、どれにも当てはまらない。
隣りに立ちながら、心は重ねても体の物理的な距離感がよくわからない。

「本当はさ、デートで山って来ちゃいけないんだよな」
「? そう?なんで?」
「よく云うじゃん。山の神様が嫉妬するんだって。知らなかった?」
へぇ~×10。そうなんだなるほど! 私はあははと笑った。

視線の高さは、30センチものさし分くらいの差があるだろうか?
横の私が、すっかりお子さまにみえるくらい、大きくて長い手足を持て余して、
ちょっと戸惑ってる素振りが滑稽で可笑しくて、私はその分力が抜けた。

荒ぶる神みたいに不敵な雰囲気だったサクが、その瞬間、なんだかやんちゃ
な子供みたいに見えた。
この人の前では、飾ったり、装ったり、そんなことは無意味なことだな。
そんな空気が心地よかった。

そういえば・・・、
元々は高野山で会う約束だった。
しかしどういう訳か今、一緒に見ているのは、比叡山からの景色だ。
高野山の空海と比叡山の最澄、
互いはライバルだったというが、本当のところどうだったんだろう。
思想が違えど、二人も深い縁で繋がっていた魂同志には違いない。

どちらにしたって、私にとっては両方、大切な仲人の山神サマだな。
いや、サクこそ、この出で立ちからして、山の神っぽいけど。
・・そんなどうでもいいことを、ふと思ってはひとりで吹き出しそうになった。

サクと話していると、思想、哲学、宗教、科学、神と仏…
現在・過去・未来、植物・動物・人間・・・
それらの境界線がなくなって、ひとつの大きな「意志」のようなものへ
じわりじわりと繋がっていくような気がする。

目に映る一切の森羅万象が鮮明な色を持ち、語りかけてくる。
自分の中で、バラバラだったひとつひとつの事象が、矛盾していた現実が、
自然に止揚されて「ひとつ」にまとまっていく。

言葉にするのはとても難しいが、とにかくそんな神妙な感覚になるのだった。



1487-turara2.jpg





共通テーマ:blog

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。

×

この広告は1年以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。