So-net無料ブログ作成
検索選択

31.私と、家族と、さよならと。 [日月記録 ~これまでの話。]

帰りの国道は、思いがけず渋滞だった。

現実に引き戻されるように、私は、少し時間が気になりだす。
もうすぐ、授業に行かなければいけない。
突然そわそわする助手席の私に、サクは余裕の笑顔を送った。
「大丈夫。3時にちゃんと送り届けるから。」
・・・んん?なんだろう?その確信。
いくらなんでも、初めて大阪にやってきたサクが、この渋滞を予想していたわけではあるまい。
けれど、なんとなくその雰囲気に押され、信じてしまうのはなぜだろう。

排気ガスの起ちこめる、見慣れた都会の風景が徐々に近づいてくるのを感じながら、
私は、ふとこれからのことを考えた。

私たちは、これから、どうなるんだろう?
とにかく、サクのママとの約束通り、彼を福島に帰さなければいけない。
なんて云って、お別れすればいいんだろう?「またね」と?
・・「またね。」か。
でも、待って、それっていつになるんだろう。

大阪と、福島じゃ、簡単には会えないだろう。
遠く離れた生活に戻って、私とサクは、どんな関係でいればいいのか?
遠距離恋愛とか、恋人同士として付き合うとか、そういう関係にも違和感を感じる。
そんな枠には収まりきれない。そうはしたくないし、できない気がする。
とはいえ、もちろん、今すぐ一緒になるなんて、あまりにも非現実的なことだった。
結婚なんて、もちろんとんでもない。
少なくとも、私の家族の理解を得るのは、相当な時間が必要だろう。
その頃、私の実家では弟の結婚が決まったばかりで、結納やらなんやらでとてもバタバタしていた。
そんな中、変な誤解や心配をさせたくなくて、サクのことは話していない。
このあまりにも不可思議なサクとの経緯を理解してもらうのは、とても骨を折る作業のように思えて、
考えるだけで気が遠くなった。
ましてや、教養や常識を何より大切にしている両親が思い描くような、ごく一般の家庭が築ける相手でもない。今のサクは無職で無一文も同然だ。
家柄がどうのとか、社会的な身分とか、学歴とか、
そんな話になれば、親戚まで巻き込んでもっと複雑な展開になるだろう。
政治家の血を引く両親が、私の相手にと望んでいる社会的な安定性は、当時のサクには皆無に等しかった。

私は、長女としてとても両親から大切に育てられてきた。
どれほどの愛情と恩恵を受けてきたか、どんな言葉でもうまく尽くせない。
それまでの私の過ちを、途方もない大きな器で受け入れ続けてくれた親心を思うと、それだけで涙で視界が滲んでしまう。
ときに厳しく頑丈な壁として私の前に立ちはだかり、それでも最後にはどんな私も、受け入れ続けてくれた唯一の絆。
死ぬほど傷つき苦しい時期にも、家族という戻るべき場所があったから、私は今日ここまで来れた。人生で最大の恩人。
私にとって、いつだって、世界で一番失いたくないものは、家族だった。
両親を失うくらいなら自分が死んでしまいたいと、小さな頃から本気で願っていた。
どうしたって切り離せない、自分の一部だった。
何をしていても、どんなときも、心の片隅には家族がいる。
それは今も同じだし、おそらく一生変わらないだろう。

サクもそれを暗黙のうちに知っていた。
そのときの私の心は、サクと共に居たいと思う以上に、家族を選んでいることを。

一緒になるには、時間が、必要だ。
そのときまで、別々の人生を歩むしかない。
おそらく、離れていようが、近くに居ようが、この心のつながりは無くなりはしないだろう。だから、どうか焦らないで。
そこから先のことは、いくら考えても、わからない。なら、考えるのはやめよう。
来たるべく、今は、流れに任せよう。

しばらくの沈黙のなか、私はサクに、心の中でこんな想いを送った。
無言のまま、サクは、それをすべて受け取っていた。

私は、最後に云った。
「サクに逢えて、よかった。」
サクも云った。
「オレも。」

それ以上のことは、二人とも何も云わなかった。










共通テーマ:blog

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。

×

この広告は1年以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。