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33.涙で書いた手紙 [日月記録 ~これまでの話。]

次の日の朝、目覚めるとサクからメールが届いていた。

PCからだった。
そうだった。彼の携帯は壊れたままで使えない。
「ただいま。ちゃんと家に着いたよ。さすがに疲れて動けないから、とにかく寝るね。」
私は、ごく普通の人間らしい報告に、ひとまずホっとした。

途中でまたおかしくなって暴走したりせず、ちゃんと、自宅に戻ったんだな。
いくら、サクとはいえ無敵の鉄人じゃない。
ここ何日も寝ていなかった上、大阪と福島を往復したのだから、さすがに限界だったのだろう。

それから丸二日くらいだろうか、サクは熟睡していたらしく、音沙汰はなかった。

心が落ち着いた今、サクはようやく深く眠りにつけるようになったのだ。
それなら、しばらくそっとしておこう。
私は、またいつも通りの日常に戻ればいいだけだった。
朝から夜まで、忙しく走り回る生活。何も変わることはない。
私は、そう自分に言い聞かせるようにしながら、理性的な自分を保っていた。

けれど、何をしていても、心だけがなんとなくうわの空だった。
考えとはウラハラに、無意識に何度もメールを確認している自分がいた。
客観的に見ると、なんだかいかにもソワソワしているようで滑稽だ。

そういえば、サクと逢うまでは、携帯なんてほったらかしてたな。
「ひなの携帯は、いつも不携帯!」
そう何度友人に、叱られたことか。
時勢に乗れず、親にも呆れられるほどメールにも電話にも疎かった私なのに、どうしたことか、この有様。

誰もが、心から大切な人との出会いによって、人生を揺さぶられ、
そうしたささやかな変化を重ねては、新しい自分に気づいていく。

何冊もの本を読んでも変わらなかった自分が、たったひとつの出逢いによって、
簡単に大革命を起こしてしまったりするのだから、本当に人生とはわからない。

幾億の正論や理屈なんかより、ほんのひとつの通い合う心が、人の魂を動かす。

― サクは、何を想いながら帰ったのかな。
とても幸せな時間だったはずなのに、嬉しそうな表情を横で見ていたはずなのに、
一旦離れてしまうと、余計な憶測が隙をついて入り込む。
もしかしたら、約束の相手と逢えたことに満足して、もうすっかり彼の中ではこの縁が完結してしまったのかな。
それとも、逢ってみて、想像していた私とは違って、運命の人じゃなかった、人違いだったかもしれない・・、
なんて、帰り道で思い直したりしてないかな。
もしそうだとしたら?
私は、どうすればいいのかな・・。

ひとりでいろいろ思い巡らしていると、思考はどうも現実的、悲観的な方向へ向かってしまう。
どこまでも楽観的なサクとの決定的な違いだ。
私は、実はとても自虐的なのかもしれない。(でも、人間ってそんなものだよね。)

― そんな悶々と膨らむ妄想と杞憂は、ようやく目覚めたサクから届いた一通の
メールによって一掃された。
そこには、これでもかというほど、サクのありったけの想いが込められていた。

(とても長い文だったのですが・・・、原文がもうないので
よく覚えている一部分の内容だけ載せます。
正直 さすがにこっぱずかしいので、
無意識に簡略化させてるかもしれません。)

「ひな、今日は会ってくれてありがとう。

この手紙は、ひなと別れてすぐ、帰りの車の中で書いてます。
どうやって言葉にしていいかわからない。
けれど、何か伝えたくて、今、見えない文字でこれを書いてる。
涙が出て止まらないから、泣きながら、書いてる。

今日一日、ひなと会って、ひなの歩んできた人生を知った。
オレは、今まで、自分が一番苦しいと思ってた。でも、間違ってたね。
本当はひなの方が、オレなんかよりもずっと苦しくて、
ほんとの地獄の中を歩んできたんだと思う。

だから、神様に、ひなに、心から懺悔する。

オレがのうのうと生きていた頃、この子はひとり、
どれだけ血の涙を流しながら、真っ暗闇を耐えてきたのか。

誰にも知られることなく、どれだけの愛で笑顔を与えてきたのか。
この子の優しさに、オレは適わない。

ひなはオレを優しいって言うけど、ほんとは違う。
オレは、今までの人生で、逃げてきただけ。

すべてを捨てても、まだ足りない。
魂さえも捨てると、ここに誓う。

神様、
命に代えて、魂にかけて、地獄の底まで、この子を全力で守ります。
他になにもいらない。
これからの人生、オレのすべてを捨ててでも、この子を愛することだけに捧げます。
それがオレに出来るすべてです。

愛しています。心から。 」


私は、何度も何度も、その手紙を読んだ。

気が遠くなるくらい嬉しくて、
どんな想いにもあらわせないほどに、心が震えて。


違う、違うよ サク
やっぱり優しいのはあなただよ

あなたは気づいていない
こんな風に私のことを想ってくれるあなたは 私なんかより ずっと優しいんだよ



どんな状態だったのかも覚えていないほど、意識は遠くなり、我を忘れ、
私は、そのまましばらく文字を追いながら放心していた。



― 時折、ふと疑問に思う。

こんな時、
何の断わりもなく、ただ自由に頬を伝う涙は、
いったい何処から来るのだろうと。




<<・・ここからの続きは 「日月記録Ⅱ」に続きます。>>
********************************
 「ROBOT」Blankey Jet City

その手紙にはこの歌の歌詞が添えられていました。
そのときはこの歌を知らなかったのですが、後で聴いてから
サクの想いとリンクしていて、すっかり忘れられないメロディになりました。



透き通ったペンで 書いた手紙は
僕の胸のポケットに入ったままさ
いったい 僕は これを 誰に渡せばいいのだろうか

透き通ったペンで 書いた手紙は
僕の胸のポケットに入ったままさ

いったい 僕は これを誰に・・・

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